閉店して片付けを終え、ひと息ついてスマートフォンを開くと、予約の問い合わせと口コミの通知が届いている。明日の仕込みの量も決めないといけないし、来月のシフトの希望もまだ集めきれていない。お店を回している方なら、こんな夜に覚えがあるのではないでしょうか。
料理や接客は、営業時間のなかでしかできません。そのぶん、返信や表づくりといった「書く仕事」は、営業が終わってからに回りがちです。この記事では、その書く仕事のうち、どこまでをAIに任せられるかを、仕事ごとに分けて書きます。
AIは、仕込みでいえば「下ごしらえ」の係です。皮をむいて切りそろえるところまでは任せられても、味を決めて皿に盛るのは店の人です。
私もふだん、記事の下書きやサイトの点検をAIに任せていますが、事実の確認だけは人が引き受けています。この記事でも、AIに任せる作業と、人が残す作業を、いつもセットで並べます。
この記事で分かること
- 飲食店の「書く仕事」のうち、AIに任せやすい5つの作業
- 作業ごとに、AIに任せる部分と、人が確かめて残す部分
- 予約者やスタッフの名前・電話番号をAIに入れる前に決めておくこと
- 1つの作業から、1週間で試す手順と頼み方のひな形
この記事の要点
- AIに任せやすいのは、返信や表の「下書き」です。送る・決める・店に出すのは人です
- 口コミへの返信は、誰でも読める場所に店の返信として載ります。AIの案は必ず読み直してから出します
- 仕込み量やシフトは、AIが記録から見当をつける手伝いまで。決めるのは店の人です
- 予約者の名前や電話番号はAIに入れず、「Aさん」などに置き換えるのが基本です
- 始めるなら、5つ全部ではなく1つの作業から。1週間試して、続けるかを決めます
AIのサービスそのものの違いや選び方は、姉妹サイト WorkTypesLab の ChatGPT・Claude・Geminiの使い分け早見表 にまとめています。この記事では、どのサービスを使う場合にも共通する「任せ方」を書きます。
飲食店の「書く仕事」は、営業のあとにたまる

飲食店の仕事は、料理と接客だけではありません。予約への返事、口コミへの返信、発注、シフト、メニューや告知の文章と、毎日のように「書く仕事」が生まれます。
5つの書く仕事と、手が止まりやすいところ
それぞれの仕事が、いつ生まれて、どこで手が止まりやすいかを表にしました。
| 仕事 | 生まれやすいとき | 手が止まりやすいところ |
|---|---|---|
| 予約・問い合わせの返信 | 営業中や閉店後に届く | 丁寧な言い回しを毎回考える |
| 口コミへの返信 | 通知が来たとき | 低い評価への返し方に迷う |
| 仕込み量・発注の見当 | 閉店後から翌朝 | 曜日や天気でいくつにするか |
| シフト表 | 月末や週末 | 希望を集めて、足りない時間を埋める |
| メニュー・告知文 | 季節の変わり目や休業の前 | 書き出しの一文が出てこない |
どれも、お客さんやスタッフに向けた文章や表です。営業中は手が離せないので、閉店後や休みの日にまとめて片付けることになり、そこが重くなります。
作りすぎ・頼みすぎも、書く仕事の延長にある
仕込みや発注の量を、ノートや頭の中の記憶で決めている店も多いはずです。見当がずれると、作りすぎた分や頼みすぎた分は、そのまま廃棄につながります。
農林水産省の推計では、2024年度の外食産業の食品ロスは70万トンでした。食品関連の事業者から出る食品ロス237万トンのうち、およそ3割を外食が占めています(農林水産省「事業系食品ロス量(2024年度推計値)を公表」2026年6月30日)。
量の見当は、記録を見返す手間が大きい仕事です。後で書くとおり、AIはこの「記録を見返す」部分を手伝えます。
AIに任せる作業と、人が残す作業

AIに任せやすいのは、どの仕事でも「下書き」の部分です。最後に送る、決める、店に出すのは人が担います。
5つの仕事について、任せる部分と残す部分を1枚の表にしました。
| 仕事 | AIに任せる部分 | 人が残す部分 |
|---|---|---|
| 予約・問い合わせの返信 | 返信文の下書き、言い回しの調整 | 空席・日時・金額の確認と送信 |
| 口コミへの返信 | お礼やお詫びの文案を2〜3通り | 事実の確認、どれを出すかの判断 |
| 仕込み量・発注の見当 | 記録の整理、曜日ごとの平均の計算 | 量の決定、天気や行事の加味 |
| シフト表 | 希望をまとめた表のたたき台 | 休憩などのルールの確認、公平さ |
| メニュー・告知文 | 説明文や告知の案、外国語の下訳 | 食材・産地・アレルギー・値段の確認 |
ここからは、仕事ごとに任せ方と気をつけることを書きます。
予約・問い合わせの返信は「店の答え」を渡す
予約や問い合わせへの返事は、言いたいことは決まっているのに、文章にするのに時間がかかる仕事です。AIには、問い合わせの文面(名前や連絡先を外したもの)と、空いている時間や伝えたいことを渡して、返信の下書きを頼みます。
気をつけたいのは、AIは店の予約台帳を見ていないことです。空席や営業日、コースの値段を、AIがもっともらしく書いてしまうことがあります。日時と金額は、送る前に台帳と照らし合わせます。
よく来る問い合わせは、店としての答えを先にメモにしておくと、AIの下書きがぶれにくくなります。メモにしておきたいのは、たとえば次のような項目です。
- 駐車場の有無と台数、近くの駐車場の案内
- 子ども連れ、車いす、ペットの受け入れ
- 貸し切りの人数と、受けられる曜日
- 持ち込み、キャンセルの決まり
このメモは、AIを使わない日にも、スタッフどうしの受け答えをそろえるのに役立ちます。
口コミへの返信は「誰でも読める」ことを前提にする
Googleマップなどの口コミへの返信は、書いた本人だけでなく、店を探している人も読みます。Googleのヘルプによると、ビジネスプロフィールから返信すると、返信は審査のあと店からの返信として口コミの下に表示され、口コミを書いた人には通知が届きます(Google ビジネス プロフィール ヘルプ「クチコミを読む・返信する」)。返信は後から編集や削除もできますが、通知はすでに届いているので、出す前に読み直すのが基本です。
AIに頼むときは、口コミの本文と、店として伝えたいこと(お礼、事実関係、次に来てほしい理由)を渡し、2〜3通りの案を出してもらうと選びやすくなります。低い評価の口コミほど気持ちが先に立ちやすいので、最初の下書きをAIに任せる意味があります。
ただし、口コミに書かれたことが事実かどうかは、AIには分かりません。「料理が出るのが遅かった」と書かれていたら、その日の様子を確かめてから、お詫びするのか、事情を伝えるのかを店の人が決めます。
一つ、AIに頼んではいけないことがあります。お客さんのふりをした口コミをAIに書かせて投稿することです。Googleのポリシーは、実体験に基づかない投稿や、割引などの見返りと引き換えに書かれた口コミを禁止しています(Google マップ ユーザー投稿コンテンツのポリシー「禁止および制限されているコンテンツ」)。
仕込み量・発注は「見当」の手伝いまで
仕込みや発注の量を、AIが当ててくれるわけではありません。AIに任せられるのは、手元の記録を整理して、見当をつける材料をそろえるところまでです。
たとえば、料理ごとの日々の出数をノートや表にためておき、AIに「曜日ごとの平均と、多かった日・少なかった日を出して」と頼みます。表計算ソフトの関数を作ってもらうのも、AIが手伝いやすい使い方です。POSレジと連動して客数の見込みを出す専用のサービスもありますが、まずは手元の記録で試すほうが手軽です。
そのうえで、明日の天気、近所の行事、予約の入り方を見て、最終的な量を決めるのは店の人です。記録が少ないうちは、AIの出す数字は「目安」として扱います。
シフト表は「たたき台」と「確認」を分ける
シフト表づくりは、スタッフの希望を集めて、人が足りない時間を埋めていく作業です。AIには、希望をまとめた表と、「平日の昼は2人、週末の夜は3人」のような条件を渡して、たたき台を作ってもらいます。
たたき台ができても、そのまま貼り出すのは避けます。労働基準法では、労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えることになっています(厚生労働省「休憩時間は法律で決まっていますか。」)。
休憩が入っているか、特定の人に負担が偏っていないかは、人が見て確かめます。週の労働時間の上限は、店の規模などによって扱いが変わる場合があるので、迷ったときは最寄りの労働基準監督署に確かめると確実です。
スタッフの名前や連絡先、体調や家庭の事情は、AIに入れる必要はありません。「Aさん」「Bさん」と時間の条件だけで、たたき台は作れます。
メニュー・告知文は「食材と値段」を人が見る
季節のメニューの説明、臨時休業や年末年始の告知、SNSに載せる文章は、AIが手伝いやすい仕事です。料理名、使っている食材、伝えたい雰囲気を渡すと、言い回しの違う案をいくつも出してくれます。海外から来たお客さん向けに、メニューの下訳を作ってもらう使い方もあります。
気をつけたいのは、AIが「国産」「朝どれ」「自家製」といった言葉を、事実を知らないまま足してしまうことがある点です。消費者庁は、レストランなどが出すメニュー・料理の表示はすべて景品表示法の対象で、実際と違うと誤解させる表示は問題になりうると整理しています(消費者庁「メニュー・料理等の食品表示に係る景品表示法上の考え方について」)。
同じ資料は、容器包装の食品に義務づけられているアレルギー表示が、飲食店のメニューには直接かからないとしたうえで、原材料を把握し、注文を受けるときにアレルギーの有無を確かめるなど、情報提供を充実させることを求めています。AIが作った説明文や下訳に、アレルギーの情報を任せきりにしないでください。
写真にも同じ考え方が当てはまります。AIで作った料理の画像は、実際に出てくる料理と見た目が違うことがあり、お客さんの受け取り方も分かれます。メニューに載せる料理の写真は、実物を撮るのが無難です。
予約者の名前や電話番号をAIに入れる前に

予約や口コミ、シフトの下書きをAIに頼むと、お客さんやスタッフの情報が混ざりやすくなります。入れる前に、何を入れて何を外すかを店で決めておきます。
小さな店も、個人情報保護法のルールのもとにある
個人情報保護委員会は、中小企業や小規模事業者に向けて「すべての事業者に個人情報保護法が適用されています」と案内しています(個人情報保護委員会「中小企業、小規模事業者のみなさまへ」)。予約台帳やスタッフの連絡先を持っている店は、規模にかかわらず、この法律のルールのもとで情報を扱います。
同じ委員会は、2023年6月2日の注意喚起で、事業者が生成AIに個人情報を含む指示を入力するときの注意点を示しています(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」)。要点は次の2つです。
- 入力が、その個人情報を集めたときの利用目的の範囲内かを、十分に確かめること
- 本人の同意なく個人データを入力し、それが応答を作る以外の目的で扱われると、法律に違反する可能性があること。そのため、AIの提供元が入力を機械学習に使わないことなどを確かめること
入れる情報・置き換える情報を決めておく
迷わないように、情報の種類ごとに扱いを決めておきます。
| 情報 | AIに入れる前の扱い |
|---|---|
| 予約者・スタッフの名前 | 「Aさん」「Bさん」に置き換える |
| 電話番号・メールアドレス | 入れない(返信の下書きには要らない) |
| アレルギー・体調・家庭の事情 | 入れない(必要なら人が書き足す) |
| 予約の日時・人数・コース | 入れてよい(名前と切り離して) |
| 口コミ | 投稿者の名前は外し、本文だけを渡す |
| 売上・出数の記録 | 学習に使われない設定かを確かめてから |
使うAIサービスについては、入力した内容が学習に使われるかどうか、使わせない設定があるかを、最初に一度確かめておきます。設定の場所はサービスや契約の種類によって違い、変わることもあるため、そのサービスの公式ヘルプで確かめてください。
スタッフにも使ってもらうなら
店主だけでなくスタッフもAIを使うなら、上の表を紙1枚にして、決めごととして共有しておきます。どのアカウントで使うか、誰が最後に確かめて送るかも、あわせて決めておくと迷いません。
個人のスマートフォンに入っている無料のAIアプリで、お客さんの情報を扱うのは避けたほうが安全です。店で使うサービスとアカウントを1つに決めておけば、設定の確認も1回で済みます。
始め方:1つの作業を、1週間試す

5つの仕事を、一度にAIへ移す必要はありません。いちばん時間を取られている作業を1つ選び、1週間だけ試してから、続けるかを決めます。
1週間の手順
試すときの流れを、5つの段階に分けました。
| 段階 | やること | ポイント |
|---|---|---|
| 1. 選ぶ | 時間を取られている作業を1つ選ぶ | 口コミ返信か告知文が始めやすい |
| 2. 決める | AIに入れない情報を決める | 前の章の表をそのまま使う |
| 3. 渡す | 店の答えや言葉づかいのメモを渡す | です・ます、店の呼び方など |
| 4. 直す | 下書きを人が読み、直して使う | 直した点をメモに足していく |
| 5. 振り返る | 1週間後に続けるかを決める | 楽になったか、直す手間はどうか |
口コミへの返信と告知文は、個人情報をほとんど入れずに済み、できあがるのも文章なので確かめやすい作業です。仕込みやシフトは、記録がたまってから試すほうが、AIの出す数字を判断しやすくなります。
頼み方に入れる4つのこと
AIへの頼み方に、決まった書き方はありません。
次の4つを入れると、下書きが店の雰囲気から外れにくくなります。
| 入れること | 口コミ返信での例 |
|---|---|
| 立場 | 町の定食屋の店主として書く |
| 材料 | 口コミの本文(投稿者の名前は外す) |
| 伝えたいこと | 来てくれたお礼、待たせたことへのお詫び |
| 形 | 150字以内、です・ます、案を3つ |
この4つを、そのまま頼み方のひな形にすると、次のようになります。
あなたは、地方の町で小さな定食屋をしている店主です。
次の口コミに、店からの返信を書いてください。
【口コミ】
(ここに本文を貼る。投稿者の名前は入れない)
【伝えたいこと】
・来てくれたお礼
・料理が出るまで待たせたことへのお詫び
・昼の混む時間帯の目安
【形】
・150字以内、です・ます調
・分からないこと、確かめていないことは書かない
・案を3つ
AIが出した案は、そのまま貼らずに、一度声に出して読んでみてください。店主の言葉として不自然なところや、知らない事実が混ざっていないかに気づきやすくなります。
うまくいかないときに見るところ
下書きがしっくりこないときは、頼み方のほうを少し変えます。
- 言葉づかいが店に合わない → 自分で書いた過去の返信を1〜2件、見本として渡す
- 事実と違うことが混ざる → 「確かめていないことは書かない」と頼み方に入れる
- 毎回同じような文になる → 口コミの中身(料理の名前など)に触れるよう頼む
まとめ:AIは下ごしらえ、味を決めるのは店

飲食店の書く仕事のうち、AIに任せやすいのは返信や表の下書きです。送る・決める・店に出すのは人、という線を先に引いておけば、AIは閉店後の書く仕事を手伝う道具として使えます。
最後に、この記事の内容を5つにまとめます。
- AIに任せるのは下書き。日時・金額・食材・アレルギーは人が確かめる
- 口コミの返信は誰でも読める。お客さんのふりをした口コミは作らない
- 仕込みやシフトは、記録をそろえて「見当」まで。決めるのは店
- 名前や電話番号は入れない。「Aさん」に置き換える
- 始めるのは1つの作業から。1週間試して決める
次の一歩
自分でやるなら:note(WorkTypes の note)では、AIを使った仕事の仕組みづくりを、自分で進めたい方に向けた記事を書いています。
任せるなら:お店の仕事に合わせたAIの使い方の整理や、頼み方のひな形づくりを任せたい方は、お仕事のご相談からお声がけください。作業範囲を伺ってからお見積りします(お見積りは無料、返信は3〜7日以内)。
AIのサービス選びや頼み方を深掘りしたい方へ(姉妹サイト WorkTypesLab)
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